パニック障害や全般性不安障害になると電車に乗ることができなくなる。こういう人はものすごく多い思います。
その他にもエレベーターに乗れなくなる、車に乗れなくなる、レジ待ちができなくなるなど、いろいろな行動に制限がかかります。
医者の説明ではよく「予期不安や広場恐怖によるもの」という説明をしています。
本などにも「狭いところにいることで『逃げられない』という不安から電車に乗れなくなる」など、電車に乗れなくなる理由として、置かれているその時の状況から逃げられないという不安が原因としています。
医者の説明と患者の実感に差異がある
上記の説明について、確かにその通りなんですが、実はこの説明で納得出来ない患者の人って多いと思うんです。
「そもそもなんで『逃げられない』ことに不安を感じるの?」とか、「別に『逃げられないから怖い』という不安があるわけではない。なぜかわからないが症状が出る」という書き込みもチラホラ見ますから。
私も同じで、パニック発作が起こったらどうしようという不安ももちろんあるものの、最初の頃は『パニック発作が起こったらどうしよう』という思考は持っていないのに電車に乗ると症状が出ていました。
そういう状況を何度か繰り返し体験したことで、「電車内でパニック発作が起こったらどうしよう」という思考が定着しましたが、それまではただ単に『電車に乗る=なぜか症状が出る』という状態でしたからね。
つまり、一般的な医者や本に書かれている「発作を起こす恐怖や不安(予期不安)が原因で電車に乗れなくなる」というのは、半分は正解ではあるものの説明不足なのです。
電車に乗れなくなる本当の原因
パニック障害や全般性不安障害は、心や体が絶えず不安にさらされたり、生活環境でリラックス環境が保てなかったりするなどが原因で交感神経が活発化し、活発化した交感神経が暴走した時に起こります。
特にパニック発作は交感神経が暴走することで起こります。
『脳の誤作動(部位で言えば視床下部や扁桃体などの誤作動)』という表現をする医師や本がありますが、「じゃあどうして誤作動を起こすの?」と疑問に思う人も多いと思います。
結論を言えば、誤作動を起こす原因は視床下部や扁桃体などの暴走が原因で、自律神経も暴走することにあります。活動を司る交感神経が暴走しリラックスを司る副交感神経の働きが鈍くなるのです。
この事実を踏まえれば、電車に乗れなくなる本当の原因が説明できます。
そもそも、多くの生物は不安を覚えるとその不安を対処すべく交感神経が優位に働きます。五感は鋭くなり呼吸は浅くなり、心拍数が上がり思考も集中的になり、「闘争か逃走」の状態に体が変化します。
~闘争と逃走の意味~
闘争と言ってもすべてのケースで殴り合いをするというわけではなく、人間の場合は特に、相手にわかってもらうように持論を展開したりわかってもらう努力をしたりします。
ここで言う闘争とは、不安や問題に立ち向かうという意味です。
逃走は不安や問題から距離を置く行動です。適当に相槌を打って受け流したり、不安が過ぎ去るのをじっとこらえて待つというのも、一種の逃走行動です。
全般性不安障害やパニック障害になると、自律神経、特に交感神経が活発化して暴走します。対象となる『不安や問題』がないにもかかわらず交感神経のスイッチが入りっぱなしになるのです。
問題を解決すべく『闘争か逃走』の状態になるのが普通なのに、パニック障害や全般性不安障害の場合は対象がないまま体の状態が変化します。
五感は鋭くなり呼吸は浅くなり、心拍数が上がり思考も集中的になるのです。通常よりも強く逃避行動が働くわけです。
強弱はあるものの、そのような状態で電車に乗るとどうなるか。
電車の揺れ、自分が動いていないのに景色が流れる矛盾、知らない乗客との接近、自分の思い通りにならない乗降(自分で電車を止めて降りることができない)などなど。
生命にとって自分の生死を分ける状況であるはずの『問題や不安』に対応すべく『闘争や逃走』の状態に変化しているのに、【自分ではコントロール出来ない】という環境にいると脳は感じるわけです。
誤作動を起こしている状態で「さらに窮地に陥っている」と脳が錯覚するんですね。
そうなるとさらに体は『危険な状況下だ!』と判断して交感神経を暴走させるわけです。
これら一連の流れは、脳の中でも理性ではなく本能の領域で暴走が起こっているので、「理性でわかっていても電車に乗れなくなる」わけです。
電車に乗れなくなる原因のまとめ
- パニック障害や全般性不安障害になると、脳の中の不安を司る部位が暴走します。不安を司る部位は理性脳ではなく本能脳なので、いくら理性で不安を抑えこもうとしても抑えることはできません。
- 脳の中の不安を司る部位が暴走すると交感神経も暴走し、原因となる不安や問題がないにもかかわらず、体も不安を対処する状態に変化したままになります。
- その状態で、自分で主導権を握れない状況(電車やエレベーター、レジ待ちなど)になると、脳は「とにかく今現在の状況を何とかしろ!」と体に指令を送ります。
- 加えて、電車やバスの揺れで平衡感覚が強く動かされることで、交感神経がさらに刺激されます。人の視線による緊張や、景色が素早く流れていく状況も、張り詰めていた交感神経をさらに刺激します。
- そうなるとさらに暴走が加速して身体状態も亢進してしまい、パニック発作やそれに似た状態になるわけです。
無理をして電車に乗り続けると、体や脳が「電車=恐怖の対象」とインプットしてしまい、やがて予期不安が重なって電車に乗ることができなくなる(=広場恐怖)のです。
以上が電車に乗れなくなる本当の原因(順序)です。
ちなみに、パニック障害や全般性不安障害の慢性期にはなかなか難しいかもしれませんが、回復期以降になれば行動療法や認識の改善の反復練習で電車に乗れるようになります。
状況や捉え方などにもよりますが、抗不安薬などの処方薬を活用して電車に乗る練習をするのも有効です。
一生電車に乗れないということはないので安心してください。焦らずゆっくりです。
医者や本の言い分が間違っているわけではない
医者や不安障害の本などで一般的言われるのが、「逃げられない、閉じ込められた恐怖や不安から電車に乗れなくなる」という表現ですが、なぜそういった不安が起こるのかについて、詳しく紹介している本って意外と少ないです。
医者の多くは『脳の誤作動から交感神経が活発化して云々』という流れは理解していますが、患者にはあまり詳しく説明しません。
なぜなら、患者がパニック障害や全般性不安障害の慢性期で非常に苦しい状態に陥っている時に、あれこれ難しい話をしても頭に入らないからです。診療時間長くなりますからね。
医者は患者にわかりやすく説明するために、ややこしい部分を省いているのです。なので医者が『電車に乗れないのは予期不安のせい』と言ったとしても、医者が無知というわけでもなく他意があるわけではないということは知っておいてください。
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